退院だが・・・

 何だかおかしな雲行きになってきた。 週末の外泊が終わり日曜日の夜病院へ戻り、翌朝採血がおこなわれその結果が昼前に出た。 その結果問題のCRP値だが2・8→3・9と予想に反して上がっていた。 結果を見てガッカリして、これではもうしばらく退院は無理だなぁ、とあきらめていた。 お昼頃医師が病室に来て言うには、「CRPが下がらないのはどうも菌による感染だけでなく、今のところ再発というまでは至っていないと思いますが、骨髄腫の活動から来ている疑いがあります」 と言うのである。 それを聴いてまず頭に浮かんだのは、今月2日に抗がん剤ベルケイドの点滴を受けた後、三週間以上点滴をしていないので薬の効き目が切れて来ているのでは・・・と言うことだった。 しかし医師の見解は違っていて、「ベルケイドによる治療が効かなくなっていることが予想されるので、サリドマイドによる治療に切り替えることを提案します」、というものであった。 う〜ん、それにはあえて異存はないが・・・サリドマイドによる治療は最後の治療であって、それをやってしまうと、その次の治療はないのである。 「サリドマイドの治療についての説明をしたいので家族の人を呼んでください」、と言われさっそく嫁さんに電話をしたら彼女はとんできた。 カンファレンス室で医師による説明を受けた。 それによると骨髄腫の活動を示す免疫グロブリンを表すIGG値はここ二回の検査の結果、ともに2000を少し切る値だということである。 映し出されたデーターを見ると最近の二回とも1950前後である。 たしか数日前の病室での説明では1000を少し超える値だ、と聞いたような気がしていたが、オフの聞き間違いだったかもしれない。 (主治医はどちらかといえば口籠るしゃべり方をする人で、言っていることを聞き取りにくい面がある) IGGの値の正常範囲に関しては諸説があり、低いほうで800〜1600から、870〜1700、1125〜1736、1000〜1900などなどがあって確定しないが、いずれにしろほんの少しオーバーし始めているのは疑いようがない。 さらに医師の説明では、サリドマイドは過去における薬害の問題もあって、きびしい取り扱いの制約や制限、規則があり、それはある面では麻薬の取り扱いよりもきびしい面がある、ということである。 最後に「入院ですが、この後どうしますか」という話に移り、「病院にいるほうがストレスがたまるので、退院したいと」、主張する。 「よろしいでしょう」と簡単にOKが出て、家で読んでくださいと、取り扱い説明のDVDと分厚いファイルを渡された。 それによると主としてこの薬の薬害は妊婦の母体を通じて生まれる子供へと出現するので、それへの注意や禁止事項の細かい説明である。 今週の金曜日まで家でそれらを読んで行って、誓約書などを何枚か提出して、それを製薬会社にファックスした後、薬が送られてきてサリドマイドによる治療が始まるという手順を踏むので、治療が始まるのは連休末の金曜日からになる。 
 今の心境だが、(善戦していたベルケイド将軍の軍もとうとう破られ、最後の望みはサリドマイド将軍だけになってしまったななぁ・・・)というのが今のオフの感想である。 そのサリドマイドだが、すべての患者に効くとは限らない。 単体使用では約30パーセント、デキサメタゾンステロイド)との併用の場合、50パーセント強の有効な効果が報告されているらしい。 じゃあ、それに外れた場合は・・・当然のことだが効果なし、ということでこの治療はあきらめるしかない。 ただ、ベルケイドと違ってカプセルなので、家で飲めるので投与のために毎回病院を受診する必要はないのがうれしい。 主な副作用に関しては、便秘や脱力感、眠気あるいは神経の障害で、特に手足のしびれ感を訴える人が多いようである。 またもや手足の痺れである。 ベルケイドと同様に末梢神経にも働くので、致し方ないかなぁ・・・。 最後に、「何か質問がありますか」、と聞かれて、サリドマイドが効かなかった場合、あるいは効かなくなった場合の治療について質問した。 医師は言いにくそうにしていたが、もう一度ベルケイドとアルケランという抗がん剤を組み合わせて使うことを試みてみます、と答えていたが、いかにも自信のなさそうな言い方だった。 それを聞きながら頭の中で、(後一年、持つだろうか・・・)と後ろ向きの予想をしていた。 夜、家へ帰って夕食を食べた後ベッドに横になっていると、横に嫁さんが黙って入ってきた。 そして我慢していた気持ちをとうとう抑えきれなくなったのだろう、泣き出して最後は声を出してワァワァと泣いていた。 そんな嫁さんを抱きながら、天井を見て個人的には長生きすることにさほどの意義は見出せないのだが、横に寝ている嫁さんのために、出来るだけ長生きしようとあらためて思った。