グラン

 最後の点滴から十日ほど経っているが今回は二週間間隔が空くので、後三日点滴なしの日が続く。 徐々にだが薬が抜けて行くのを感じている。
昨日あたりから足の痺れが少し弱まったような気がしている。このような状態が続き病変が起きないならばこんな嬉しいことはないのだが・・・

 アッチャンの突然の死から同じように十日ほど経過したが、嫁さんはまだまだ彼の死を心静かに受け入れるほどにはなっていない。 彼の思い出などを、古い写真集を引っ張り出してきて次々に語っている。 そんなわけでここのところ同じ話しや思い出を何度も何度も聞かされている。 アッチャンの話の合間にオフの息子の問題についてもいろいろ話しが出る。 そんな話も含めて横で黙って聞いているだけだが、そんなことで彼女の気が晴れるのならこんな楽なことはないと思って出来るだけ聞いている。
 昨年の夏母親が亡くなったのだが、アッチャンを残しては死ねないと思い続けた母親だったが、最後は認知症でそんなことなどすべて忘れたボンヤリした頭のまま亡くなっていった。 その相手のアッチャンも半年後眠りの中で亡くなっていった。 見ようによっては二人の死はワンセットの死だったとも言えないことはない。 そのことが嫁さんにしては、良かったことなのよ、としきりに口では言いながらやはり何処か悲しいのだろう今でもそう言いながら急に涙ぐんだりしている。

 二、三日前のサイエンスニュースの中に 心筋梗塞など重症心不全の患者に対する心筋細胞を使った再生医療の実現に向けて一歩前進というのがあり、 ≪新型万能細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)から作った心筋細胞に、顆粒球コロニー刺激因子(G—CSF)という物質を加えると、心筋細胞が非常によく増殖するとの研究結果を、慶応大の福田恵一教授と下地顕一郎助教らが5日付の米科学誌「セル・ステム・セル」電子版に発表した。≫とある。
 この中に出てくる顆粒球コロニー刺激因子(G—CSF)というのは、グランと呼ばれている商品名の薬のことで、骨髄を刺激して白血球を多く作る作用で知られている薬で、オフも昨年自家移植を受けた時に白血球が下がり何度か注射してもらったことがある。
 医療の研究では今注目されているIPS細胞による現場では、IPS細胞への骨髄液の働きが注目されていて、再生医療の鍵を骨髄液が握っているといっても良いくらいらしい。 オフの病気の多発性骨髄腫は骨髄で作られる小さな形質細胞の一つ一つに腫瘍、つまり癌が出来る病気だが、この分野の仕組みの解明が一日も早く進むことを願いたいものだ。