アッチャンの死を悼む

 昨日がんセンターを受診する。 予想通り採血、採尿の結果はトータルプロテインの値も5・8と低く、赤血球→44、血小板→9・8などで比較的安定している。 ずっと続いていた下痢も申し合わせたように昨日朝には止まり、この先しばらく期間が空くので4回目の点滴を入れることにした。 医師との話し合いで次回の7クール目からは5週で4回の点滴になった。 ということはこれまで3週で4回(1週と2週に2回づつ)入れていたのを4週で4回(週1回づつ)となった。 点滴と点滴の間隔がこれまでの倍空くことになるので、その分薬が抜けて身体がかなり楽になるだろうと思う。 薬の量も当初始めた頃の3分の2になっている。 これでもきついようだともう一段減らして3分の1にすることが出来る。 昨夜はステロイドを飲んでいるせいであまり眠れなかったが、さいわい今日も下痢はとまっているが足の痺れは相変わらず残っている。 現在オフは末梢神経に影響が出ているが、末梢神経には運動神経、自立神経、感覚神経があり、その内の運動神経は筋肉を動かすなどの運動機能をつかさどり、自立神経はからだのさまざまな組織や器官のはたらきを調節している。 感覚神経は、熱さ、冷たさ、痛さといった温痛覚や触覚、手足の位置、運動変化、振動などを認識する深部感覚などを脳に伝える働きをしている。 この感覚神経に障害が出ているのだが、高じれば熱さ冷たさが分からなくなったり、つまづいたり転んだりしやすくなるような障害が出て来ることになるという。
 
 今日7時過ぎに入院していた嫁さんの兄(次兄)が亡くなったと連絡が突然入った。 嫁さんは先週所用で病院へ行きそのついでに見舞ってきたばかりで、その時は何の兆候もなかったと言う。 病院の話しでは夜は1時間半毎に見回っていたが、本人は布団を頭から被って寝ていたので朝まで気が付かなかった、最近は調子も上向いてきていて個室から大部屋へ移っていたが、同室の人たちも変わった様子などもなくて誰も気が付かなかったと言う。 嫁さんは電話の後さっそく上の兄と病院へ行ったが、院長の話しでは、厳密な死亡時刻や死因は分からないとしながら、一応心不全ということにしておきました、という説明で、警察による検死をお求めならそのような手続きもしますと言うことだったが、それは断ったと言う。 病院の院長さんは昔の左ト全という喜劇役者http://torori.ptu.jp/bokuzen_hidari_roj.jpg似の人で、医師らしくなくて飄々として現実離れしていて、どこか憎めない人なのである。 次兄はアッチャンと呼ばれていたが、そのアッチャンは安らかで静かな顔をしていたのが救いだったわ、と帰ってきてから嫁さんは泣きながら語っていた。 そのアッチャンは中学、高校頃からおかしな言動が目立つようになり、その後双極性障害躁うつ病)と診断されて20年以上の長きに渡って入院生活をしていた。 ちょうどオフが嫁さんと知り合った頃から状態が良くなり、退院して三年ほど自宅で過ごしていたのだが、昨年夏ごろにまたそう状態が出てきて再入院になり病院生活に戻っていた。 長年にわたり強い向精神剤を使用してきたことなどもあり、心臓やその他の臓器などにも重い負担が掛かっていたことは容易に予想できる。 再入院の前の夜、夜中にマンションの下の階にいるアッチャンから電話が掛かり下りて行って夜中だから眠るように言って上がってきた。 しばらくして玄関のチャイムが鳴り出るとアッチャンだった。 戦国武将の加藤清正の生涯を書いた古い絵本を手にしていたが、訊くと大事にしていた本だと言うのでそれを貰って預かることにした。 しばらく二人で話ししてから遅いので下へ行くようにうながすと、アッチャンはおとなしく降りていった。 翌日嫁さんとアッチャンを車に乗せて病院へ連れて行った。 行きたくない!と言っていたが、いざとなると意外と車には素直に乗った。 車の中ではさかんに、ゆっくり行けばいいんや!と大声で言っていたが、病院へ着く頃にはさらにドーパミンが全開になったのだろう、応接室に入りソファーにふんぞり返って座り、大声で、俺を誰だと思っている!などと叫ぶようにいた。 院長が、しばらく入院だなぁ、と言うやいなやパッと立ち上がり部屋から逃げ出そうとした。 それを予想していた嫁さんがドアのところで咄嗟に衣服を掴んで引きとめようとしたが、ものすごい力で衣服が1メートルほど伸びたくらいで、嫁さんはその後しばらく腕におかしくなったと言う。 そのようなことは若い時の発病した頃に比べたら些細なことで、いろいろあって・・・電車を止めたり、警察沙汰になったりしたこともあったと言う。 嫁さんは子供の頃からどちらかと言えば発育の良いお嬢さんタイプだったらしいが、知り合った頃には何処か暗いところがあるなぁと感じたのは、そんなアッチャンのいろんなことが思春期の彼女の性格形成に深い影を投げかけて根を下ろしていたからだろうと思える。 ところが上手くしたもので、オフは内面に暗いものを持っていない人は深く好きになれない性格なのである。 今でもアッチャンがいたからこそ嫁さんと一緒になったような気もするから、世の中は捨てたものではなく、不思議なところなのだ・・・アッチャンは今年60歳少し前だったが、身罷るのが早かったと言えばたしかに早かった。 だが人はオフのように60歳を過ぎたあたりから身体にいろんな障害が出てくるものである。 それも癌をはじめとして生活習慣病などなかなか治らない厄介な病気で老後を苦しむことになる。 そんなことを思えば寝ている間に周りの人も気づかないまま静かに死んでいったアッチャンの死は、現代人の理想としている死に近いとも言える。