普天間基地移転問題について

 味覚や足先の痺れ、軽い下痢は続いているものの抗がん剤を減らした結果今のところ体調はまあまあである。 今週は点滴は休みの週になるのでそれだけでも気分が大分楽である。
 普天間基地移転問題について鳩山総理は一応今年の5月まで結論を出すと結論を引き伸ばして年を越したが、結論を出すのを引き伸ばしただけで行き先の特定がまったく出来ないまま日米間でこう着状態が続いている。 沖縄の基地の一部である普天間を沖縄以外の地に移設したい鳩山政権に対して、アメリカが現行の宜野湾移設を主張して譲らないからである。 現行案の譲れない理由としてルース駐日大使は、東アジア地域の中国と北朝鮮が両国の安全保障上の脅威であり、依然として冷戦終結前と同じレベルのリスクが残っているからだとしている。
 ≪ルース駐日米大使は29日「日米同盟が地域の安定に不可欠だ」と強調し、日本を含む東アジア地域で中国と北朝鮮が依然として安全保障上の脅威であるとの考えを示した。 また東アジア地域の安全保障について「冷戦終結にもかかわらず(終結前と)同レベルのリスクが残っている」と述べ、中国について、経済分野で日米との関係が深まっているとしながらも、軍事面で「サイバー攻撃の能力を拡充し、最新の核兵器や潜水艦の導入も進めている」と指摘。 北朝鮮についても「百万人以上の兵力を持つ、世界で最も軍国化された国家」と述べ、警鐘を鳴らした。 同国内で近い将来に予想される政権移譲に伴う「政権崩壊」も、安保上の脅威だと語った。 大使はその上で「沖縄の重要性は防衛上、高まっている」と強調。 普天間飛行場の移設に関して、現行案が「10年以上にわたって二国間で話し合われたものであり、ベストの選択だ」と述べた≫
 アメリカは20世紀に入り二度の大戦を挟んで世界的な覇権国になった国である。 それ以前のイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国がアジアやアフリカ諸国を植民地化して領土を拡大し覇権を競ったのに対して、国内の南北戦争などで出遅れたアメリカは同様な政策を採らないで、現地国家の政権と軍事援助や利権などで結びつくことでその覇権を拡大していく戦術をとった。 植民地政策というのは意外だが、差し引きしてみると宗主国側の出費が大きくて、領土が離れている場合など軍隊の駐留などその維持管理のための出費超過になっていたと言われている。 
 冷戦時のアメリカが一貫して採って来た軍事戦略は、ソ連や中国など敵とみなす国の前衛に同盟国を配置して、そこを防衛線にして本国を守るという戦略であった。 そのためにはたとえば東アジアでは日本、韓国、台湾などの同盟国と共産圏であるソ連北朝鮮、中国と対立、緊張関係を常に維持する、ということが大前提であった。 かってニクソン大統領の時代にアメリカはソ連を封じ込めるために毛沢東の中国と結んだことあった。 それに習って田中首相も電撃的に日中国交回復をはかったが、これに当時のキッシンジャー国務長官が怒り狂いロッキード事件が発覚し、田中首相が失脚させられたとされている。 対立しておくべき日中が仲良くするとアメリカの世界戦略が崩れるからである。
 アメリカは第二次大戦後ドイツ、日本などに大規模な軍事基地を作り、東西からソ連圏ににらみを利かせて来ていたが、冷戦が終わり世界がほぼ資本主義を受け入れた今となっても世界各地に多数の基地を持ち維持し続けている。 アメリカは圧倒的な軍事力を持つにもかかわらず、21世紀に入りいろんな意味でその先行きが危ぶまれはじめている。 
 以下は名護市長選挙の結果を踏まえてのアメリカの各マスコミの論評である。
 ≪24日に投開票された沖縄県名護市長選について、米主要各紙が24日の電子版で、米軍普天間飛行場の同市辺野古への移設に反対する新顔、稲嶺進氏が当選したことを伝えるとともに、計画の推進が一層困難になった、などとする論評を掲載した」とある。
 これについてニューヨーク・タイムズ紙は、稲嶺氏の当選で、鳩山由紀夫首相に普天間飛行場の県外移設を求める圧力が強まったと指摘。 「名護市長選の結果は、日本政府に計画を打ち切るか、少なくとも大幅に変更するよう迫るものだ」とした。
  ウォールストリート・ジャーナル紙は、同市長選が現行計画に対する「事実上の住民投票だった」とした。そのうえで、稲嶺氏の勝利について「沖縄県知事や日本政府は地域の反対をおして計画を続けることはできるが、投票結果は鳩山首相にとって、米国の要請を受け入れることを一層難しくした」と論評した。
 一方、ワシントン・ポスト紙は同市長選の結果が「米国と日本との関係に大きな影響を与える」としたうえで、最終的な判断は、沖縄県知事と日本政府にゆだねられるとした≫
 普天間基地の移設問題の出口は見えないままだが、この問題は移設先の場所の選定を何処にするかが大問題ではないと思う。 アメリカの世界戦略をわれわれ日本国民が今どう捉えどう評価するかが問われているのである。
 数日前内田樹氏がブログ「基地をめぐる思考停止」の中で面白い指摘をしている。
 <アメリカが沖縄の基地を返還するということがありえないのは、保守派の政論家たちが言うように、それが対中国、対北朝鮮の軍事的拠点として有用だからではない。 軍事基地が有用であるように見えるように、アメリカは対中国、対北朝鮮の外交的緊張関係を維持しているというのがことの順序なのである。 軍事基地を他国領内に置く合法的な理由は、「そこに軍事的緊張関係があり、それをコントロールすることがアメリカの責任である」という言い分以外にないからである>