厄払い対祭囃子

 今月に入ってから何となく身体の調子が思わしくない。 どうやら体調は下降期に入っているようである。 
 昨日午前中朝飯のお粥を少し残して、ケダルイ気分のままネットを覗いていると、突然ドンジャン、ドンチンジャンと鉦や太鼓の尋常ではない音がし始めて、それにジャ〜ン、ジャ〜ンとシンバルのようなものを叩くような音も混じる。 10月に入ってだんだん寒くなってきたので、今は日中でも硝子戸は閉めている。 にもかかわらずかなり大きな音として部屋の中まで聞こえているということは、まさに尋常な音量ではない。 時々ここのマンションでも休みの日、遠くから木魚や鉦、太鼓などの音が聞こえてくることがある。 同時に経を読む声も流れてきたりするので、「ああ、何処かで部屋で法事でもしているのだなぁ」・・・と思うが五月蝿いと言うほどのことはない。 今回のはそんな程度の生易しい音ではなかった。 最初西側からその音はしてくるように思ったが、ここの部屋は西の端なので、それより先には部屋はないので不思議だなぁ・・・と思っていた。 さっそく下の階から嫁さんが上がってきて、「何よこの音は・・・」と言うので、「下の部屋でも聞こえるのか?」と訊くと、「もちろんよ」とのことである。 「おかしいなぁ、西側に部屋はないのにそこから聞こえて来るんだよ」と言うと、「何言っているのよ、この音は上に階から聴こえてきているのよ」と答える。 そして「**さんの部屋からかしら?」と言う。 嫁さんが言う**さんとは、この部屋の上の上の階、つまり最上階である6階に二区画を買い取って住んでいるお金持ちのお婆さんのことで、かなり自己チューで、時々エキセントリックな行動をする未亡人のことである。 しばらくして嫁さんが、「**さんところじゃなかったわ、この部屋の上の5階の++さんところだったよ」言う。 上の階の++さんと言うのは、奥さんは普通の人らしいが、旦那さんが少し変わった人で、こちらが軽く挨拶や会釈をしても、今まで一度も会釈も返さず素知らぬ顔で通しているような人らしいし、それに夜などはかなり酒に酔ってグデグデになり奇声や罵声を上げたりしていることが何度かあると言う。 最初の内はオフも笑ってネットをしていたが、 そう言えば、上の階はこの夏前に売りに出していると聞いていた。 仲介の不動産業会社がたまたま嫁さんの友人が所長をしている会社で、その売値が相場よりも一千万円も高くて、問い合わせさえ来ないですよ、と言っていると訊いていた。 買い手が付かないのは部屋に悪霊でも付いていると思い、それを厄払いでもすれば売れるとでも思ったのか・・・ネットをしながらそう思ったりしていたが、その音は終わることなく、調子に乗るようにドンジャンド、ンジャン続いている、その内に、悪霊は欲に駆られているテメエじゃないか!と思うと、だんだん腹が立ってくる。 たまたま、あるブログで今日12日夜は近所の池上本門寺のお会式(おえしき)で万灯の夜です、という書き込みがあったのでそのYouTubeを開くと、オオッ〜!こちらでも派手にドンチンドンチンやっている! 上の階が悪霊払いなら、こちらは日蓮宗の祭囃子だ〜と・・・画面と備え付けのスピーカーのボリュームを目一杯上げたら、上の階からの音は大音量の祭囃子で聞こえなくなった。 聴いたか!お会式の鉦と太鼓それに笛の祭囃子だゾ!と叫んでいたが、そうしている内にさすが祭囃子である、大音量で聴いていると自然に身体が動いてくる。 これはいいぞ!そのあたりから気分はもうイケイケになって、心も窓も全開し放って、阿波踊りの真似事のように祭囃子に乗って足で拍子をとり、手を上げ部屋の中を縦横無尽に踊りだしていた。 嫁さんが再び下の階から飛んで来て、それを見て呆れたように、何か叱っているのだが、その声さえ大音量の中ではよく聴こえない。 嫁さんは怒って開け放ってある窓を閉めはじめ、C棟は何をやっているんだ、と苦情が来るわよ!と叱られる。  こちらもボリュームを絞ったが、しばらくして上の階の音は止んだ。 しかし音が止んだのはほんの暫らくだけで、再び上ではドンジャン、ドンジャンが始まった。 気のせいか前よりさらに大きな音に聴こえてくるし、舞い踊っているのかその振動も天井に伝わっている。 前回に道徳がどうのこうの書いたばかりのオフだが、そんなことすっかり忘れてまた、コノヤロウ!とマナコは吊り上り挑戦モードになり全身が不動明王のように炎が燃え上がった。、ボリュームを一杯に上げ、こちらも負けじとチャンカ、チャンカと再び目をむいて阿波踊りを始めた。 それを見ながら、これはもう駄目だと、嫁さんは叱るより、馬鹿に付ける薬はない、という風で半分アキラメ顔になっていたが、今度は窓を開けていなかったのでなすががままにして置いてくれた。 それが15分以上も続いたと思うが、その内に上の階ドンジャンはひときわ大きな音になった後で終了したようなので、こちらも祭囃子を切ったが、その時はもうヘトヘトであった。