海岸への散歩

  母親が亡くなってから三週間になるが、嫁さんは日に何度も何度も溜息ばかりついている。 秋の澄んだ天気が続いているので、少しでも気晴らしになるだろうと思い、誘って散歩に出かけるようにしている。 坂道の住宅街を下りていき連休で渋滞が続いている二号線を渡り、JRの踏切を渡るともうすぐそこは須磨海岸である。 今日はまさに雲ひとつなく、はるか向こうには南大阪の生駒とか葛城の山々から紀伊半島に続く山々まで見えた。 目を西に転ずると明石大橋とその先に淡路の島の山並みも見える。 海辺はもう夏の賑わいはなく、魚釣りに来ている人たちが海に突き出た小さな防波堤にいくらかいる。 また海上にはウエットスーツを着たウインドサーフィンを楽しんでいる連中が幾組かいる。 台風の余波のほどよい風を受けて、帆を膨らませて海上を矢のように早く走って行くサーファーの姿は見ていても気持ちがよい。 日除けの傘を差した嫁さんと並んで座って、そんな風景を何も言わず眺めてから帰って来る。