蛍雪会 オハルさん

 大広間での懇親会が終り、近くのお店へ二次会に行く連中、そのまま宿に残る人たち、宿泊しないで帰る人たちと三組に分かれることになった。 オフは数人の男たちと共に二次会へ行くためにフロントへ向かうエレベーターを待っていた。 しばらくしてエレベーターが来て乗り込んだのだが、そこへさらに女性たちがわぁ〜と数名加押しかけてきた。  先に乗っていたのは男性達だが、後から乗った女性たちを合わせると、そのうちの一人か二人は定員オーバーで残されるだろうほどの人数で、エレベーターはいわゆるすし詰め状態なった。 そうなると待っていても一向にドアが閉まらない。
  最後に乗ったのが教師を定年した女性で、同級生の女性の中では一番陽気でひょうきんで通っている人だった。 とりあえず彼女の名前をオハルとしておこう。 先に乗った男の中の一人が酒が入っているせいもあっただろう、「オハルお前は無理だなぁ」との声も出て、その声に何人かの笑いの唱和もあった。 じつは悪いことにオハルさんは他の女性達より少々横にカサが大きかったのである。 最初オハルさんを含めて二人ほど降りたと思うが、それでもまだドアが閉まらなかった。 ところが何を思ったか降りた一人がまた乗り込んだのだが、すると突然ドアが閉まりだして、結局オハルさん一人を残してエレベーターは動き出したことになった。  ドアが閉まる時に、オハルさんの顔を見たかどうかはっきり憶えていないが、多分彼女は閉まるドア越しみんなにに笑いかけていたのだろうと思う。 
 エレべーターが動き出すと同時にオフは嫌な気分になり、降りた時には、ほんの少しだが悲しくなっていた。 動き出してから嫌な気分になったのは、軽い後悔の念からだ。 ドアが閉まらなかった時に俺が降りるよ、ととっさに声が出なかった、と言うかその時にはそれを言うことすら気が付かなかった。 エレベーターがオハルさんを残して動き出してから、嗚呼、あの時、「アハハ・・・俺が降りるよ」と笑いながら一声出していれば済むことだったのに・・・とそんな悔恨に囚われたという訳である。
 そうすれば、オフ君て素敵な人だわ・・・と今さら還暦を過ぎた女性達の目がハートになったりしないが、オハルさんをはじめ女性達からも再評価され、点数を稼げるせっかくの機会だったのに・・・ムムム・・・これは残念なことをしたなぁ(笑) 二次会へ好くバスの中では同じ後悔が、かなり不純な意味に代わっていたが・・・ とにかくオハルさん、ごめんね・・・(笑)