夏の雲と蝉

 ようやくここ関西でも梅雨明け宣言が出された。 青空が広がっていて、朝から蝉が競うように鳴いている。

 今日で昨年兵庫県立がんセンターに入院してちょうど一年経ったことになる。 一年前は身体(骨)が痛くて、痛くて一人でベッドに寝たり起き上がったり出来ない状態だった。 入院まで間緊急用にと出されていた痛み止めボルタレン、座薬だったがそれを使って胃が荒れて胃が痛かった。 入院した頃は布団の上でもさえ痛くて寝れなくて、病院ではエアーベッドにしてくれた。 合併症である骨の痛みの緩和のために麻薬を使用しながら、検査を経てすぐにVAD療法という強い抗がん剤の治療が始まった。 その後自家末梢血幹細胞移植を二回(タンデム)を行ない、その結果が良好で今年の4月に退院となった。 今は言って見れば経過観察の時期だが、再発の兆候が出れば再治療で多分サリドマイドなどの薬が試みられるが効果が出ない場合は緩和治療に切り替えられることなる。

 前回も書いたが。 生物学者福岡伸一氏は生命というものを次のように考える。 タンパク質を消化分解したアミノ酸を消化管を通して体内に取り込み、細胞内で再びタンパク質に再合成している。 細胞はまだ同時に古いタンパク質の分解している。 そのような合成と分解の代謝のバランスの上に成り立っている動的な平衡状態こそが<生きている>ということであり、合成と分解の平衡状態を保つことで生命は環境に順応するように自分自身の状態を微妙に調整している・・・それがまさに生きていることに他ならないのだと言う。

  この間オフは、多発性骨髄腫という血液のガンになった。  多発性骨髄腫というのは、簡単にいえば・・・人の血液の中には多数の形質細胞というのがあり、その細胞は骨髄の中で作られている。 形質細胞は骨を破壊したり、新しく骨を作ったりする働きをしているのだが、その形質細胞に何かの原因で腫瘍が出来る。 いわゆる小さな形質細胞一つ一つがガン化してしまったのである。 ガン化した細胞は死なないので血液中でドンドン増え、それが骨の破壊を進めるので、骨がもろくなると同時に血液中にカルシュウムが異常に増える。 また赤血球や白血球、血小板などが低下して、それが原因で身体の各臓器にいろんな障害を起きて、それらの障害のため最後は臓器不全を起して死に至るという病気である。
 まさにガン化した形質細胞の増加により、動的な平衡状態が崩れ去って、ついには命が失われるのである。

 この時とばかりに鳴く蝉の鳴き声がここのところとみにいとおしく、夏の雲を見ながらボンヤリ耳をすますことが多い。