ベトナムで

 今日も映画を見た。 タイトルは「青いパパイアの香り」、この作品は前々から見たかったベトナム人の映画監督トラン・アン・ユンの作品である。 彼は現在、村上春樹の小説「ノルウェーの森」の映画を撮影中で、作品は来年公開されるという。 この監督が好きになったのは以前映画館で「夏至」という作品を見て以来である。 ストーリィに関してはオヤオヤというほど幼稚な気もするが、とにかく映像が美しい。 雨季のベトナムのネットリと肌にへばりつくような暑さやケダルサを見事に映像で表現していたと思う。
 十年少し前になるが雨季のベトナムを一人で旅行したことがある。 旧サイゴン、現在のホーチミン市の6月の夜は暑い。 宿泊したホテルの名前は忘れたが、バックパッカー用のガイドブックで有名な「地球の歩き方」シリーズで見つけた。 日本人のツアー客が行く100ドルクラスのホテルではなかったが、2、30ドルの手頃な値で、シャワーのお湯の出もよく、エアコンも日本のサンヨー製だったし、朝食のバイキングのお粥や、フランスパンやチーズも美味しくて、少し古いがコジンマリとした小綺麗なホテルだった。 日中はシクロ(輪タク)に乗ったり、徒歩だったりして食材や衣食住の必需品がどっさりある有名なベン・タン市場http://shiritaivietnam.com/?document_srl=772  http://d.hatena.ne.jp/kanamaruyuji/20090316/1237196342へ毎日のように出かけていた。 今日久しぶりにネットの観光ガイドで市場を見てみたが、新しくなって綺麗になっていて当時の人々でゴタゴタした怪しい雰囲気はなくなっているのが残念だ。 
 雨季の頃のベトナムでは、日中突然空が暗くなったと思うと、ものすごいまさに滝のような雨が降ってくるが、豪雨は数十分で雨は止みすぐに青空になる。 一度昼飯に道端の店のテントの下で食べていた時に雨が降ってきたことがある。 たいていの人はドンブリを持って店の中へ移動したのでオフも習ってそうした。 ところが二、三人雨の中で食べている人がいた。 ところが彼らの上のテントが見る見るうちに膨らんで、アッと思ったときは膨らんだテントから大量の水がズワッ〜と音を立てて溢れ落ちた。 もちろん食べていた人たちや食べ物はズブ濡れでそれを見て皆で大笑いした。
 たしかに豪雨はすぐ止むのだがその後が蒸し暑くて、そんな日の夜はまさに熱帯の蒸し暑くて寝苦しい夜となる。 ホテルの部屋の冷房の下のベッドで横になっているのもすぐ飽きてしまうので、何処へ行くとも当てもなしに夜の街へフラフラと繰り出すことになってしまう。 ホテルを一歩出ると熱帯の夜の空気はムッとするほどの熱気に包まれるのだが、わずかに大気はフルーツの香りがしているし、空は何処までも南国の濃いブルーである。 大通りは何処もかも走ることでわずかの涼しさを求めている若いバイクカーでひしめいている。 裏道は暗くていかにも危険そうなので明るい界隈を一回りして、ホテルからさほど遠くないカフェの椅子に腰を下ろして珈琲を飲むことが多かった。 カフェといっても大通りから一歩脇道へ入った夜の道端に椅子を置いただけのカフェで、出される珈琲はインスタントで多分ネスカフェだったと思う。 毎日のように通うので言葉は通じないがそこの笑顔の二十代のママさんとはすっかり顔見知りになって、日中道端で買ったマンゴーなどを持参したりした。 時々カフェの椅子に三十代半ばに見える縁なしのメガネを掛けた男が座って英字新聞を読んでいた。 色白な外見から見て中国系とも思えたが、オフはその物腰から日本人ではないかと思えて何となく気になる男だった。 男が座ってからしばらくするとタクシーが来てカフェの手前で停まり、派手な色のアオザイを着た二十代の若い女の子が降りて来る。 女は椅子取って男と並んでに座り珈琲を頼んで飲み、その後二人は仲良くバイクに乗って何処かへ行ってしまう。  そんな仲の良さそうな二人を見て、ああ、そうか・・・二人はそんな関係で、こんな生き方もあるんだなぁ・・・と一人勝手に納得して、何となく微笑ましく思えて後姿を見送ったりしていたことがあったっけ・・・。