アンミツ姫

 これは前にも一、二度書いたことがある話であるが、昨日の<幼なじみ>を書きながら思い出したので、また書くことした。
 オフはガキの頃から小学校卒業する頃までの間は、どちらかと言えば暗くて目立たない、おとなしい子供であった。 今、もしオフが犯罪者になって、マスコミから小学校時代の担任の先生がインタビューを受けると、そんな子が居たかどうか記憶にない、との答えが間違いなく返ってくるようなそんな子供だった思う。 しかし、それが中学時代以降になると、良い意味でも、悪い意味でも先生の記憶に残るような目立つ子供になっていたと思う。
 話はそんな暗く目立たない小学低学年の頃の事である。 どのような場所だったか覚えていないが、女の子三人がゴザの上でママゴト遊びをしていた。 オフは男の子のクセにママゴト遊びが何となく好きで、それに混ざりたいと思いながら混ぜてもらうようなチャンスもなかったし、自分から混ぜて欲しいなどとは言い出せないような気弱な子だった。 その時だけだったと思うが女三人に混じってママゴト遊びをしていたが、どんな風の吹き回しかとにかくママゴトへオフも混ぜてもらえたのである・・・まさに天にも登る心持であったと思う。 その時のママゴトのコンセプトはアンミツ姫ゴッコというものだった。 アンミツ姫というのは当時の月刊少女漫画の中でもとくに人気のあるシリーズであった。 三人の女の子の内の気の強い一人が主役のアンミツ姫役で、後の二人の女の子は腰元役だった。 オフはお殿様で、考えてみればアンミツ姫というのは年頃のジャジャ馬お姫さまで、未婚という設定だったから、オフはその父親役ということだったことになるのだが、その場ではアンミツ姫の旦那様役をやっていたと思う。 しばらくそのような設定で遊んでいたが、その内に腰元役の一人の子が、私もアンミツ姫をやりたい、と言いだした。 少しモメタと思うが、一回だけということでアンミツ姫役は交代した。 ところがその後腰元役の一番おとなしい子もおずおずと、私もアンミツ姫をやりたい、と言いだしたのだ。 今度は女二人が組んで、それはダメだといって訊かない。 おとなしい子はメソメソとベソを掻き始めてしまったが、それでも女二人はそれを無視して彼女がアンミツ姫役をやることには同意しなかった。 困ってしまったオフだが、その時、これは!というアイデアが頭に閃いて、さっそくそれをみんなの前で披露した。 そのアイデアと言うのは、三人ともアンミツ姫役をやれば良い、という何ということのない提案だった。
 女二人は不満そうだったが一応それを受け入れて、三人がアンミツ姫役になることでママゴトが再開されたが、すぐに気の強い女の子が面白くないからもう止めようと言い出し、もう一人の子もそれに応じてママゴト遊びはそこで中止されてしまった。 まあ、話はどうと言うことはなく、たったこれだけのことである。 そしてその後この時の話を、オフは長い間忘れてしまっていた。
 長い間封印されていたこのときの話を再び思い出したのは、オフが色気づいて遊んでいた20代前半の頃である。 二人の女に同時に手を出してしまい動きが取れない状態になっていたのだが、じつはその背後にオフが思いを寄せるもう一人の女も隠れていたのだった。 何とか上手く言い訳しながら事を納めようとしたのだが・・・この時も誰が言い出したか分からないまま、もう止めましょう、となってしまった。 気がつくと皆去ってしまい、オフは一人ぼっちになっていた。 なんだか自分の人生というのは、小さい時のあのアイディアを飽きもせず繰り返しては失敗しているだけだなぁ、と思い出したのがキッカケだった。 その後目出度く結婚して、その思い出はオフのオフの記憶からふたたび忘れ去られていった。
 そして数年前からブログを書くようになって、再びそのママゴトのことが時々思い出されるようになった。 もちろん今度はややこしい現実的な問題は何もないのだが(笑)・・・<女と男の思いの違い>のようなものを感じるたびに、小さい頃のこの時の記憶が蘇ってきて、あのママゴトの時に男と女の機微のすベてが語りつくされていたんだなぁ・・・と思い出す次第である。