若者の状況

 先日仕事が忙しい中で息子が電話でつぶやいていた、東京を離れてどこか他所へ移って別のことをやりたい気持ちだよ、という言葉がズット気になっていた。 そこへ持って来て昨日息子と同じ世代の夫婦にあって話ししたこともあって、今の若者の状況やこれからの時代ということについて昨日から今日にかけていろいろ考えることになった。  
 終戦直後から高度成長時代にかけて日本には豊かな社会を築くというわかりやすい物語があって、その流れの中にわれわれの団塊の世代は育ち、会社に入り働きそして近年に停年を迎えつつある。 わかりやすい物語とは個々人にとっては、誰にでもガンバレばチャンスはあり、一生懸命働けば報われるという希望があると言う、これは言ってみればジャパニーズドリームと言えるものだったかもしれない。 90年代に入り日本の資産バブルが崩壊した時点で、この日本的な擬似社会主義的なドリームは解体しているだが、まだまだ多くの大人たちはそれを信じていない。 そして昨年のリーマンショックで世界的に市場資本主義のドリームもツインタワービルのように見事に崩壊してしまった。 かっては多くの知識層を捉えた社会主義建設のドリームもソ連東欧の崩壊で求心力を失って久しい上に、今度は資本主義は成長するという希望の物語も夢と消えてしまったのである。 
 現在の世界を覆う不安の根っこには、このような物語が失われた喪失感にある。 さらに北米発の新型インフルエンザ騒ぎとその不安が追い討ちをかけるように世界を巻き込みつつある。

 今日の経済不況をめぐる議論で誰も疑わない一つの前提がある。 それは・・・いずれこの不況が終わるだろうという前提である。
 日本経済にはもともと実力があるので、政府が景気対策で時間を稼いでいれば、全治3年ぐらいで再び3%ぐらいの成長率に戻る――と信じているのは、多分麻生首相だけではない・・・戦後を生きてきた多くの我らの同僚たる大人たちも同様にそれを信じているのである。
 昨秋以降の経済危機で世界や日本成長率はマイナスになっている。 日本の一般庶民にとっての実感は90年代のいわゆる<失われた10年>と現在はつながっていて、そしてこの長期停滞には終わりがないかもしれないという不安が多くの人の心を覆っている。 この意味で今の日本が不幸なのは、富が失われていることより希望が失われていることだろう。 政府はバラマキと企業救済で、財政赤字を積み上げて将来世代には巨額の政府債務、赤字国債をリレーしている。 それらの政策は偽りの希望しか生み出さないいうことは、すでに失われた10年で100兆円の失敗が証明しているにもかかわらずだ。 この停滞を打開するには、新しい産業分野の開発して生産性を上げるしかない、イノベーションで雇用を流動化して労働の再配分を行なう必要があるーーー何時ものように経済評論家や学者達は言っている。 たしかにそれはそうだろう・・・だがそれはあくまで現在の価値観が通用する時代が明日も明後日も続くと仮定された上での話である。 

 いま我らの団塊の世代に続いている大人達も会社内で何とか正社員という椅子に座り、そこからこぼれおちないことをただただ願っている。 彼らは言う、たとえ今の仕事が嫌になっても、転職すると生涯収入は5000万円以上減ってしまうんだぞ・・・と脅しのように言っている。 それを受けてキャリアーを目指す若者たちは選択の自由なんて幻想だと悟り、希望を求めることも忘れ終身雇用に回帰しはじめている。 自分が望めば今とは違う生活ができるという希望(オプション)を・選択し、そして努力すればよりよい未来が開けるという自由な社会の基本的な選択肢を彼らエリート自身がすでに諦めている。
 すでにそこからあぶれた若者たちは一生フリーターに転落していて、彼らはもう這い上がることは出来ないし彼らの将来はない、という見方がマスコミなどで広く喧伝されている。  しかしこのような現在の状況にあっては「希望のなさ」においてはフリーターもエリートも置かれている状況は同じだろう。 フリーターで生きる人々はは意外に「正社員になりたい」という願望をもっていないという。 気楽なフリーターに順応すれば固定費も少なく、それなりに生活できることを知っているからだ。 それを過剰に心配するのは彼らの親達であるが・・・同じように心配している大人がいる。 コストと効率を重んじる経営者たちである。 彼らはフリーターの将来を心配すると言うより、消費生活に参加しないで市場が縮小してしまうことのみを懸念しているのだが・・・。
 日本においてはバブルの崩壊以来あまりにも救いのない閉塞状況が20年近く続いて来た。 今冷静に将来を合理的に予測すれば、将来を見越し適応して生活を切り詰め、質実で「地球にやさしい」生活しているのは一体誰だろう・・・と言うという本質的な問い方も出来る。
 ほとんどの文明は成熟した後衰退していった。
 池田信夫氏はそのブログhttp://blog.goo.ne.jp/ikedanobuoで以下のように書いている。
 ≪「明日は今日よりよくなる」という希望を捨てる勇気をもち、足るを知れば、長期停滞も意外に住みよいかもしれない。幸か不幸か、若者はそれを学び始めているようにみえる≫