職人がいらなくなる

 モノモライは水で洗ったり抗生剤を飲んでいるせいか徐々に治まってきて、体温もお昼過ぎに36度台に下がった。
 
 さてマンションのリフォームについてだが、今回狭いリビングと隣の和室との間の仕切り壁を抜いてもらい、リビングと和室を一つにして床全体を絨毯敷きにした。 しかし、和室の天井や壁面はそのままで和室仕様のままである。 手前のリビングはクロス仕立ての洋壁と洋天井なのだが両者にの間に仕切りの材を一本入れただけだがあまり違和感がない。 これはこのままでいけるぞと思えるので、次のリフォームの時絨毯敷きになった和室の天井や壁、床間とその横の押入れはさわらないで残すことにした。 ただし、リビングになったのでこれからは畳ではなくてソファーに座ることになる。 と言うことは視線がその分高くなる訳で、床間の高さを上げる意味で床間に厚手の棚を渡してその下を地袋にすることにする。 さらに障子や引き戸の建具をあえて和室を強調するように作り直す。 また、これまでのリビングは縦に長かったが、和室と繋げたので横にも長くなった。 その結果リビングの全体の形がL型になった。 L型の部屋というのは使い勝手が悪いので一部をつぶして形を長方形にして、畳二畳ほどしかないが狭いウォークイン・クローゼットをそこに新たに作る事を考えた。 これらの仕事を一年後体調が普通並みの戻っておればという条件付だが、オフが自作することを嫁サンが認めてくれた。 狭いクローゼットは夏場は内部が蒸れて暑くなるだろうから、リビング側の高い位置に窓を付け、リビングの冷房を適時中へ導入できるようにしようとか、今からイロイロ考えていると楽しい。 先日も書いたが、衣食住を自分の手で作るということは、言ってみればこのように仕事前にあれこれ考えたりイメージするという楽しみに通じている。 これがたんにお金を貰うためだけの仕事だったり、工場でその仕事に使われる一部の部品を毎日何個も何個も作ることだったりすれば、仕事は楽しみどころかたんにお金を貰うためだけの苦痛な労働だったりになってしまう。
 話は少しずれるが、八千代というところで農家をリフォームしていた時のことだ。 リビング、ダイニング、キッチンの床に床暖房を設置した。 この床暖房の仕事は前の綾部の場合は業者から銅管や銅の放熱板を買って、直線の銅管を全部自分の手で根太の間のキッチリ挟んだ断熱材の中に納めて一つ一つU字形の銅管で隣と繫ぎそれを全部専用電気器具でカシメて繫いでいくという仕事をした。 八千代の場合急いでいたこともあり床暖房の有名メーカーの床暖房を入れ、その仕事を指定の業者に任せることにした。 メーカー品はすでに導入管が組み込まれたいろいろな大きさのパネルを設置するだけになっていてまことに合理的なのだが、パネルに使われている材料や構造を見てビックリした。 導管はペットボトルに使われているような押せば潰れるような安物のパイプで、それが形に切り込まれたペラペラの発泡スチロールの間に通されその上に熱伝導率が最高値の薄い銅板が張られている。 上からフローリング材を釘留めする箇所だけが細い合板で出来ている。 職人はそんなペラペラなパネルを根太の上に敷き詰めて、後は上からフローリング材を張って行くだけなのだが、メーカーの合板を嫌うオフは断って自分で無垢の桧のフローリングを張った。 合理的といえばあまりにも合理的、これ以上安いコストでは作れないという代物である。 驚くことはそれだけではない。 戸外に設置する灯油ボイラーまでの配管もメーカー支給品で長さがギリギリしか用意されていない。 しかもご丁寧にそのコースまで図面上で指定されている。 ところがその図面通りに配管するよりもすぐ縁の下に通すというコースをとった方が仕事がしやすい。 と言うのはたまたまそこに建物の基礎コンクリートの通風孔が開いているからである。 ただしそこから配管を入れると内部の基礎コンクリートが邪魔をするので少し迂回すればパネルの口まで支給されている導管では30センチほど足りなくなってしまうと職人は言う。 そこで職人はメーカーに携帯で連絡を入れて交渉していた。 その結果を聞いて呆れた。 メーカーは図面どおり仕事をしろと言うらしい。 そのためには既存の基礎コンクリートにわざわざ穴を二ヶ所開けるという仕事になる。 同じ穴をあけるならとりあえず縁の下入れて、邪魔な基礎コンクリートに一箇所穴をあければL型のことろを直線で行けるので配管は足りないどころか余ってくるはずだよ、と指摘すると、それを言ってもダメだろうとすでに職人は諦め顔である。 理由を訊くと、万一のことがあったらメーカーが責任を取ることになるので、仕事は図面どおりにやれ、と言われるだけですから・・・と。 それを言われるともう何も言えないですよ、と職人は言って縁の下に潜り込んで基礎コンクリートの穴あけの準備にかかった。 しかし、現場仕事となる配管をしかも長さを切って支給してくるメーカーのあまりにも合理的なやり方にも驚く。 電気器具の設置の場合だと、その配線ケーブルも長さを切ってメーカーが支給して来ているのと同じである。 結局それらの部品代もメーカーの売り上げに計上されるということなのだろうが・・・。 仕事が終わってから配管職人と腰掛けて少し話し合った。 彼が言うには、もう職人なんて入らないんですよ、と言う。 メーカーは改良してアルバイトのズブの素人でも配管仕事を出来るような仕組みにドンドン変えて来ているからだ、専門の職人を使えば手間賃というか日当が高いので、素人でも出来るような仕様にしてきている、という事だった。 それは大工仕事でもいえることである。 押入れ一つ作るにも押入れキッドというものがあり、仕事はそれを組み立てて留めるだけである。 床の間も玄関もそんなキッドがある。 工務店は職人の労賃を出来るだけ安くしたいので、簡単に短時間で出来るそんなものを使うことになる。 工作のゴミも出なくて手軽である。 床も狂いの少ない合板で表面だけは無垢材が張ってあったり、木材模様がプリントされているフローリング。 天井も六畳、八畳などのキッドのセット、壁も機械でパシパシとボードを張ってお終い、後はいろんなガラのクロスを貼れば出来上がり。 柱や梁の下仕事もプレカット工場でやってくれる。 プレカットは材の曲がりを嫌うので、集成材が使われることになる。 その柱も大壁仕様で壁の裏側に隠れてしまうので格安の集成材で十分なのである。 今の家造りは一人だけマトモな大工さんがいれば後は作業員やアルバイトでも十分なのである。