IPS幹細胞移植治療

 昨日から24時間の輸液の点滴が始まっている。 午後からフト見ると、アレレ点滴液が落ちていない。 看護師さんを呼んで注射器で圧を掛けてもらうが、通らないわ、と言う。 オフはどちらかと言えば出血してもその血が固まってすぐに止血する、それは良いのだが、困ることもあるのだ。  現在オフの骨髄の働きはまだまだ正常に戻っていなくて、採血時の血小板の値はせいぜい10万程(標準値が14万から44万)しかないのだが、先の入院時も点滴を休止しているとそこが固まって通りにくくなって何度も困ったことがあった。 昨日首を切開してカテーテルを入れたばかりだというのに、下手をすればもう一度やり直しになりかねないと看護師さんは申し訳なさそうに言う。 それだけはごめんなので、注射器で液を押して入れることを何回か繰り返してもらった。 何回か繰り返していて、通ったわ!と看護師さんが嬉しそうに叫んだ時は本当にホッとした。 その後点滴台にポンプを取り付けてもらって圧をかけて送ることにしてもらった。 値が低いのは血小板だけでなく、赤血球320万(正常値が410〜530)、ヘモグロビン10(13〜17)、白血球3000(5000〜8500)などなども少ない。 それぞれの値が少ないのはこれまで受けた数回の抗癌剤治療の影響で骨髄の造血機能がまだまだ回復していないということだろう。
 そこへ持って来てまた来週からアルケランという抗がん剤が入る。 これは超大量療法と言われているように血液中の白血球がゼロになってしまう。 しかし、これは人体にとってたいへん危険な状態である。 しかしこのようにして危ない橋を渡ることで血液中にあるガン化した形質細胞も一緒に破壊しようということである。 さらに危険な状態で骨髄の立ち上がりを待っているだけでなく、先に採取して冷凍してある自家末梢血を再び血管に戻して正常化を助ける訳である。  また白血球だけでなく赤血球なども低下するので、状態を見て血小板やヘモグロビンの輸血も数回行う。 たしかにこのように見ていくと一連の治療は合理的に考えられた療法である。 が、かんじんの人体の方に再び骨髄の働きを回復する力がなければ、白血球の数値が上がらなくて治療は失敗して患者は死に至る。 また人体にダメージの大きい療法なので年齢制限(65歳まで)や回数(二回まで)が限られている。 それを二回繰り返して(タンデムという)その後回復すればそこで完治かと言えばそうではなくて、数年後血液中にガン化した形質細胞が増えてくる、これがいわゆる再発である。 もう再び抗がん剤の大量点滴は行えない。 最後の治療として最近承認されたサリドマイドやベルケードという新薬を注射したりして使われるが、これも効果がある人とそうではない人に分かれということである。 ガン細胞をやっつけるために人体にとってダメージが大きいがギリギリまで抗がん剤(毒)を使う、ずいぶん乱暴な療法であるが、今のところこれが血液のガンにたいしての最良の治療法なのである。 ガンとは何か?どうしてガンが出来るのか?残念ながらその仕組みすら、われわれの知識では分からないからである。 しかしその仕組みの根本に遺伝子がかかわっている事がようやく分かってきている。 何かの原因でそれまで働いていた遺伝子の幾つかが突然働きを止めたりすることまで分かってきた。 しかし、その仕組みが分かないまでもその前に、多分IPS幹細胞からその人固有の白血球や赤血球が作れるようになり、それらを移植する治療法が一足先に確立されるだろうと思う。