昨日久しぶりに弟から電話があった。 弟はオフが昨年の夏に病院へ入院してまもない頃見舞いに来てくれた。 年末にもう一度見舞いに来ると聞いたいたが、その前にオフが一時退院してしまいその約束は流れていた。 そこで仮退院中に神戸のマンションへ見舞いに行くよという電話だった。
 五十台半ばを過ぎている弟だが現在学校に通っている。 学校と言っても職業訓練校であって、そこで土木仕事の監督を務めるための資格を取るための勉強をしている。 電話口で二年間通ったその学校をようやく来月で卒業することになると言っていた。 三年ほど前それまで勤めていた会社を退職して、失業保険を貰っていた。 ちょうどその頃は安部内閣が誕生した後で、盛んにセイフティネットや再チャレンジなどと言われた頃で、資格を取るため学校に通うなら失業保険がその間継続されしかも授業料も無料であるという特典が付いている。 それに弟も応募してこの二年間土木工事の監督資格を取るための教室に通学していたという訳である。 ところが弟が言うにはそこの学校に応募している生徒たちは、ほとんどが弟より若い世代らしいが、はなから資格など取る気がなくて、ただただ2年間の失業保険の延長を目当てに来ているだけのやる気のない連中ばかりだと言うことだ。 弟はそんなことを笑いながら話していたのだが、話を聞きながら彼もまた彼らと同じ穴のムジナかとオフは苦々しく思いで訊いていた。 ところが昨日の話では卒業前に土木監督の資格も何とか取れて今就職活動が始めたところだと言う。 資格と言っても二級ではなく一級の資格を取ったらしくて、遅からずまあまあの待遇で何処かへ就職できるだろう、という話である。 そんなことなどを電話越しに話していた弟の声は最近になく張りのある明るい声であった。
 三年ほど前、オフが綾部で古民家の修復仕事をはじめた頃 その時には弟はまだ前の会社に勤めていた頃だったが、その会社というのがその少し前に一度目の不渡り手形を出して、給料も遅配になっているような危ない状態が続いていた。 そんな話を自嘲気味に面白おかしく話していので、明日の身の振りかたも分からないような危ない会社にいて毎夜毎晩ノウノウと眠れるなぁ、オレだったらそんな所で働いているだけで気持ちが滅入っておかしくなってしまうがなぁ、と苦言を呈したことがある。 その時はシュンとして訊いていた弟だったが、それから幾日もたたない頃に会社を辞めるよ、と連絡してきた。 弟はその後オフのことをどちらかと言えば避けるようにしていたようだった。それだけでなくたまにこちらから電話してもまったく声に張りというものがなかった。 昨日の明るく張りのある電話の声を訊いて、ホットしている。