今のマンションの玄関を入ってすぐ左手は洗面所で洗面台と洗濯機が置いてある。 洗面所にはトイレとバスのドアが並んで付いている。
 そのトイレから出るときドアを開けるとすぐそこに洗面台があって、トイレから出るとき否が応でも鏡に映った自分の顔が見えることになる。 トイレから出る度に自分のの顔を見ることになるのだが、意識的に自分の顔を見ないようにしている。 鏡に映るどす黒い自分の顔を見るとゾッとしてしまうからだ。 どす黒いだけでなく、咽喉や顔のシワも増えているし、皮膚に張りがなくカサカサしている。 また見た目には分からないが皮膚を触ると皮膚の下にオデキでも出来ているようにブツブツしている。 このブツブツがどう言う訳か夜中に時々痒くなる。 いったん痒くなるとあちらこちら次々と痒くなって困ってしまう。 これらの症状も抗がん剤治療の目立たない副作用の一つだろうと思っている。 見た目だけでも自分の年齢が少なくとも10年は老けたなぁと思えるが、自分では実質10年以上老けていると思っている。 しかし、それが実際に目で見ても分かるところが、鏡の生々しく恐ろしいところだ。

 西洋の魔女は鏡を見ながら、鏡よ、鏡・・・この世で一番美しい人は誰? と聴いたとあるが、これは魔女が自分の顔を鏡に映しながら聴いたのだろうか? だとしたら魔女はすでにその答えを分かりながら、ため息をつきながらあえてそれを聴いたとしか思えないのだが・・・まあ、あまり細かいことは野暮になるので、この話は、鏡がいかに正直か、ということを言いたかったのだろうという程度の話としてとどめておこう。