リストラ

 アメリカの自動車会社三社、いわゆるビックスリーと言われてきたGM、フォード、クライスラーの三社がそろって倒産の危機に見舞われている。 議会下院で140億ドルの緊急救済融資をする事を議決したのだが、上院で廃案となってしまった。 GMは弁護士などを雇い、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請の本格検討に入った。 それを受けて今度はブッシュ政権が緊急支援策について具体的検討を始めた、とある。 金融危機対策の7000億ドル(約64兆円)の公的資金枠を活用した支援をしようという事らしい。

 http://www.sakigake.jp/p/news/financial-crisis.jsp?nid=2008121201000676

 この問題は、今回のサブプライムローン問題に端を発した金融機関の破たん問題の流れの中にあるようだが、区切って考えるべき問題だと思う。 まあ、今回の金融問題でさらに破綻が早まったという事はあるだろうが、遅かれ早かれいずれビックスリーは破たんしていただろう思う。 その一番の原因は、会社経営陣が短期的な利益を求め過ぎていたことにあるだろうと思う。 アメリカ流のビジネスというのは極端な言い方をすれば勝つか負けるかだけなのである。 そこでは利益を上げることがすなわち勝つことであるとされている。 つまり儲かることが勝つことで、とくに今の企業社会ではどれだけ利益を上げたということだけが評価する基準や指標になっている。 それを単純に数値化したのが株価であり、当然のことながら株価は株主にどれだけの利益をプレゼントしたか、という事とダイレクトで繋がっていると言わけである。 今回ビックスリーがアメリカ議会に緊急の支援を申し込んだ過程で、彼らが専用の飛行機でワシントンに乗り込み、彼ら役員のボーナスだけでなく給料も一銭もカットすることなく国民の税金である公的な資金の援助を申し出ていたことなどが明らかになった。 会社が株主のものだ、と言い切る経営者は株主の顔は見えていても、社員の顔は決して見えていないだろう。 会社には社員がいて、それらの社員は会社から貰うサラリーで生活している人達であり、その社員の背後には妻や子供もいて、それぞれが住宅ローンなどを抱えてみんな日々生活をしている訳である。 景気が悪くなればそんな社員をリストラすることが当然、というよりも果敢なリストラを出来る経営者ほど評価されるという風潮が当然視されている。
 オフの高校の友人の一人に、商船大学を出た後商船会社に勤めたのが一人いる。 商船会社というのは戦後の日本で一番最初に不景気に見舞われた業種である。 一応エリートだった友人は三十代半ばで社員をリストラする係を命じられたのである。 それを訊いた時そんな仕事を受けるくらいなら会社を辞めようと思ったという。 だが、ある決意をしてその仕事に臨んで何とか命じられていた人数の社員の首に鈴を付けたという。 その後、しばらくして彼は会社に辞表を出した。 最初から自分も辞する決意がなくては、とうていそんな仕事をやり抜くことは出来なかった、と彼は語った。  利益を出すこと、儲かることが勝つことだと言ってはばからない人たちが日本にも増えてきているし、そんな人たちはこんな話を訊いても、おそらく、馬鹿だなぁと笑うだけなのだろう。