枯野

 オフの入院している病院の六階の西病棟は、血液内科の入院患者専用の病棟である。 血液内科で入院してくる患者のほとんどは白血病かリンパ腫の患者である。 どう言う訳か知らないが最近はリンパ腫の患者がかなり多いらしい。 オフのような多発性骨髄腫の患者は少ない。 もともとこの病気は10万人に1人か2人程度の患者しかいないと言われる病気らしいので患者の絶対数は少ない。 今はどうか知らないがオフが入院した時は骨髄腫の当病院の入院患者はオフが一人だけであった。
 血液系の癌の場合、手術が出来ないので治療法は放射線療法か化学療法に限られる。 その関係で当病棟の入院患者さんは副作用で頭の毛が抜けている人がほとんどである。 ほとんどの患者さんがそんな状態なので、若い女性の患者さんなどでも禿げた頭に被り物などしていない人が結構いる。 さすがに階を下りて売店や他の科へ受診へ行く時などは、帽子などをかぶっていくみたいだが・・・帽子などかぶり物をしていてもスキンヘッドだという事はすぐに分かる。 それは眉毛も抜けて薄くなっているからである。 
 先日お風呂へ入った時、ついうっかりシャンプーを多めに絞り出した。 自分の頭に毛がほとんどなくなっている事を忘れて、昔の感覚で絞り出してしまったのだ。 仕方ないからまず頭をさっと撫でてから、ついでに足の付け根の陰毛にもシャンプーをしてみた。 しかし、その肝心の陰毛も抜け毛していて往時の五分の一ほどしか生えていないのだが・・・芭蕉の句に(夢は枯れ野を駆けめぐる)というのがあったと思うが、まさに枯れ野でも見ているようで淋しい限りである・・・。
 最近はリンスなどしたことはないのだが、せっかくシャンプーをしたのだからサラサラヘアーにと、少ない陰毛にリンスもして少し爽やかな気分でお風呂から上がった・・・よ。