その手は桑名の・・・

 メーリングリストにしろ、出会い系にしろネットで知り合う相手は匿名である。 現実のその人とメール中のその人が一致しない場合が多い。
 たとえ書かれているメールに誇張がなかったにしろ、受け取る側が勝手にイメージをふくらましてしまっている事はよくある事だと思う。画家の女の場合も本人がメールの中で貧乏な画家と書いていたので、オフがそれを受け取って描いたイメージは、髪をポニィテールにして紺の作務着などを着てコツコツ仕事をしているイメージであった。 それはそれとして、なかには明らかに嘘だろうというのもあるし、逢ってみるとたいがいイメージが違っているものだ。 最近は出会い系の紹介に自分の写真を載せて平気な人も増えているらしいが・・・
 そこでかなり抵抗はあったが、思い切りTバィという結婚相談所に加入することにした。 学歴や結婚歴、収入、趣味、諸事情まで分かって安心で、毎月毎月二、三人の紹介があったのだが・・・ところがその便利さがかえってアダとなってしまう。 この先ひょっとしたらもっと良い相手が紹介されるのではないだろうか・・・という期待が生まれてしまうのである。 毎月紹介はされるのだが、逢ってみたいなぁ、と思える相手はさほどいなかった、まあ、とりあえず交際を申し込んで見るかと思い相手もそれをOKしてくれて、電話しているうちにダメになるケースが多かった。  
 そんな相手の一人に桑名の人がいる。 電話で二、三回話しているうちに、急に彼女がオフのところへ来たいという話になった。 彼女はドライブが趣味で新しく出来た東海北陸道を走ってみたかったのだ、と言うのだ。 彼女はバツイチだったが前の夫は警察官だったと電話で明かしてくれたが、オフはそちらへは一度お世話になった身なので。それを聞いて気持ちが少し引いてしまった。 がそれはそれで答えは、もちろんOKだよと答えた。 逢ってみると意外と口数が少なくおとなしい人だった。 翌日彼女が帰った後何となくだが、これは駄目だったなぁ、と思ったが、さほど残念だというほどまで思わなかった。 ところがその後電話があり、お互いに遠く離れているので結婚となると無理だが、時々旅行とかに一緒に行きたい、とか言うのだ。 それこそこちらから言いたいような願ってもない話だ、もちろんOKだよ、と答える。
 名前は忘れてしまったが、一ヶ月後ほどして愛知県の西の方にある鄙びた温泉へ出掛けた。 宿ではなくてお客が宿泊料金を決めるという変わったやり方をとっている旅館で、一時はそれが週刊誌にも載り珍しがられてお客も来たらしいが、行った頃はまた寂びれた宿に戻っていた。 翌日、桑名の彼女のもう一軒ある家に泊めてもらい帰ってきたのだが・・・帰る朝どう言う訳か、相手は一言も口を訊かない。 前夜はごくごく普通にお相手したと思ったし・・・その後のご機嫌も良さそうだったのに・・・何と言うか理由訊くのもはばかれる雰囲気で・・・すごすご一人帰って来て、結局縁がなかったんだなぁ、と自分なりに納得してこの話はこれっきりになった。

 また、続く・・・