襲撃事件

 現在一番マスコミを賑わせている事件が厚生省事務次官宅襲撃事件である。たまたまオフが外泊中にNHKのニュースを見ていた所、ちょうど犯人が自首してきた後でトップニュース扱いで15分間もそのニュースに費やしていた。このような事件は例え社会面のトップを飾るとしても、欧米のCNNやBBC等は間違ってもニュースのトップに持ってきたりはしない。このような社会面のニュースがNHKのトップニュースになったのはいつの頃からだろうか。そんなに昔のことではないような気がする。人々の関心度からいえば、こういう事件は一番受けはするのだが、欧米の新聞などでも大衆紙サンくらいがトップニュースとして扱うくらいだ。大衆の関心度を中心に番組を組むのはいいとしても、公共放送の立場を考えた時にそのような受け狙いの方向に行くことは疑問を感じてしまう。そして、この事件の背景説明としてどこかの大学の名誉教授が自分に注目を浴びたくて行った事件だと解説をしていた。それはそうだろうが、相変わらずキレのない凡庸な解説でしかなかった。

 さて、オフが見たのは犯人が自首してきた次の日くらいだったのだろうかはっきり覚えていないのだが、犯人の故郷の父親がテレビのインタビューに応じていて受け答えをしていたが、その受け答えが何か異様に見えてしまった。人を殺めるという大きな犯罪を犯してしまった息子の事を語るのに、まるで自分の息子ではなく他人の事を話しているようにペラペラと話している父親を見て違和感を感じたわけだ。
 その後田口ランディさんがブログでこの事件について語っているのを読んだ。この人はアパートの一室でものを食べずに衰弱死した引きこもりの兄と犯人と並べて、この事件を本来これは家庭内殺人だったのではないかと、書いていた。

http://runday.exblog.jp/

 オフもランディさんの推察にはインタビューを受けていた父親を思い浮かべながら同意出来た。あの父親は自分でも気がつかないうちに自分を世間に同化させて、自分の事を擁護している。そして万事につけてそのような姿で息子に接していたのだろうと思う。そのような父親を前にして、言いたいことも言えず自我を形成していった息子心の中に抑圧されたものが蓄積され、それが今回の事件で噴出したというのがこの事件の背景だろうと思える。
 また、ランディさんは最後に自分の父親の異常な行動や言動の原因を彼の戦争体験にさかのぼって書いていた。たまたまその翌日にケーブルテレビでデビッドリンチ監督の「ストレイト・ストーリー」を見た。その中で主人公が若い男から老人になって困ったと思う事は何か、と訊かれそれは若いころの事を覚えている事さ、と軽くいなす場面がある。さらに映画の最後に所で禁酒していた主人公が小さなビールを飲む場面がある。そして主人公の老人が昔アル中だった話がさしはさまれていて、その背景に彼が若いころ間違えて犯してしまった罪・・・その罪を味方の兵士の誰もが彼の罪とは知らなかったという・・・そんな小さなエピソードが挟まれていた。静かに語られるそれらのエピソードはどちらかと言えば単純なこの映画の話の中に深い奥行きを与えていたなぁと思えた。
 戦争体験、それも野戦で敵と向き合った第一線の兵士がPTSDつまり外傷性ストレス症候群にかかる率は近代戦以降ではでは多いと言われている。 ストレイト老人やランディさんの父親も、日常の中で自分ではどうしようもなく狂ってしまう自分を抑えることがで出来なかったのだろう。 戦争の後遺症とは見えないところでわれわれの心を蝕ばんで、家族を含めてその被害を被っていっているのだろう。