グリーンスパン氏の証言


 金融のことはすべて彼に任せておけばうまくいくと言われていた前FRB議長グリーンスパン氏は先月、アメリカ議会で証言した。
 その中で、市場原理主義の考えに欠陥はなかったかとの問いには 「欠陥はあったと思う。それがどのぐらい深刻なものかは分からないが、非常に悩んでいる」と答えたとある。 さらに「部分的には誤りはあったが、銀行などが利益を追求すれば、結果的に株主や会社の資産が守られると思っていたが、それは間違いだった」とも発言した。 また、「世界観や理念が正しくなかった、うまく機能しなかったのではないか」という問いに対しては 「そういうことだ。自由市場理論が例外なくうまく機能するという事例を40年以上も当事者として経験してきたこともあり、だからこそ私はショックを受けている」 と率直に述べている。 付け加えて 「金融業界が予想以上に危険な取引に走り、当局の対応が遅れた面がある。私の経験では融資担当者は金融当局よりも、貸し出しリスクや借り手についてはるかによく知っていた。こうした決定的な支柱が崩れてしまい、衝撃を受けている。なぜそうなったのか、まだ十分理解できない」 と苦悩を露わにして証言台を去って行ったとある。

 グリーンスパン氏は自由放任主義を標榜した新古典派経済学の流れをくむ考えをもつ人で、かつてのFRB議長としての発言はまるで、天からの声の如く、世界中の金融関係者を動かしていた。その彼が現在の状況に困惑していると素直に発言している。市場に非効率性や不安定性が存在するのは、神の見えざる手の動きを妨害する諸々の規制があるからで、その規制を排除すれば市場原理に従って理想状態に近づくという考え方が正しくはなかったと認めている訳だ。

 多分これからアメリカでは、特別委員会でもってサブプライム問題の徹底した査察、議論がなされるだろう。何故、この問題が起こったかについての膨大な記録が作られると思う。民主主義の根幹はこのような失敗した政策に対する徹底した分析・議論・査察がなされ、同じ間違いを繰り返さないという決意によって守られる。一方、平成に始まった日本のバブルの崩壊から長いデフレに対する国会での分析・検証がなされ何故あれらの一連の間違いが起きたのかはっきりと結論ずけられたという話は聞いていない。まさに場当たり的な首相の発言と、政治を理念で語る事が出来るオバマ氏の発言と同様、民主主義の理念に対するあまりの違いに愕然としてしまい、無力感にとらわれてしまう。

 日本の政治制度を一度解体して新たに出直すほどの改革が必要だと思われる。