公的資金の投入

 アメリカの証券会社リーマン・ブラザーズが経営破綻した。 同時にほぼ破綻状態であったメリルリンチバンク・オブ・アメリカ救済合併されることになった。 その後、米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は15日夜、深刻な資金繰りの悪化に直面した。

 その顛末を、ニュースを追って記しておくと・・・
 リーマンの経営破綻が知られた直後に今度は保険最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が格付け会社ムーディーズとプアーズにより15日格下げ発表を受け、AIG株のその日の終値は、前週末比7.38ドル(60.79%)安の4.76ドルとなった。危機の深刻化で同社はさらに多額の資金調達が必要になり、同社の危うい状況にさらに拍車がかかった。

 同社は、致命傷となる格下げを回避するために、多額の資金を必要であったのだがその資金調達の目処がつかなかったのだ。
 ムーディーズなどが格下げすれば、AIGは取引相手から追加担保として多額のドルを差し出すよう要求される可能性がある。 また、格下げを根拠にAIGまたはその取引相手が契約満了前に解約を求める可能性があり、そうなればそれらを支払わない訳にはいかない。
 AIGは、急きょ約400億ドルの調達計画をまとめようと努力したものの実現しなかった。 最後に政府の支援に頼ろうとした。 しかしその時点で政府は救済に乗り出すことには消極的で、民間企業による解決に向けた仲立ちをしようとしていた。
 今年3月のベア・スターンズ処理の時のように・・・米連邦準備制度理事会FRB)が焦げ付きを覚悟で300億ドル円近い特別融資をJPモルガンへ融資し、その資金でJPモルガンによる救済合併が成立した時のようにだ。
 米ゴールドマン・サックス・グループ(GS)とJPモルガン・チェース(JPM)はFRBの強い働きかけにより、AIG支援のために大幅な融資枠を設定するというニュースが流れた。 だがAIGがそのような多額の資金を借り入れようとしていることが公になり、疑心暗鬼の市場心理は次の危機的な状況の会社をターゲットにして捜していたが、今度はAIGが危ないと警戒感が生まれることになった。
 そして今度はAIGが経営破綻するという情報が流れ株価が急落し始めた。 
 その後、米連邦準備制度理事会FRB)は16日、経営不振から株価が急落している米保険最大手のAIGに、最大850億ドル(約9兆円)を融資すると発表した。米政府はFRB融資の見返りとして、AIGの発行済み株式総数の約80%分の株式取得権を得る計画で、AIGは事実上、国の管理下で再建を図ることになった。
 FRBAIGが今月7日には、2000億ドルの公的資金投入枠で、政府系住宅金融公社2社を政府管理下に置くという直接の公的資金の投入に続いての第二弾を打ったわけだ。


 日本ではバブル崩壊後、不良債権処理が遅れたあげく、97年11月、三洋証券、山一証券北海道拓殖銀行が連続破綻、金融危機が深まった。 こんどの米証券4位のリーマン・ブラザーズの経営破綻(はたん)劇は、バブル崩壊後の対応として、山一証券処理の例と重なって見ええてくる。 特に国際業務を展開していた山一の破綻で、日本の当局は海外への危機連鎖を懸念。 証券会社の山一に対し、異例の日銀特融を行い、処理を支援した。 山一ショックとさらにそれに続く日本長期信用銀行の経営危機で「日本発の世界金融恐慌」が現実味を帯びてきた。   そこで政府は98年、資本増強の枠組みを助けようと公的資金投入に踏み切った。 その公的資金で各銀行は大量の不良債権の破綻処理に手を付け始めることが出来た。 カネに糸目をつけない公的資金投入によって、ようやく大手都市銀行金融危機収束に向けて不良債権処理を始めることができたのである。


 つい数日前まで11月の大統領選も意識する米政府は「金融機関の安易な救済はしない」(ポールソン財務長官)と強調していた。
 「ツービッグ・ツーフェイル(大き過ぎてつぶせない)」路線は取らない構えで、市場の不安を広げていたが、事の重大さに気がついたのか今回急きょ資金調達をした。 今回の住宅バブル崩壊に伴う米金融危機で、市場は「米当局は日本の前例からいずれ公的資金の活用をためらわないだろう」と期待していた、どうやらその期待に逆らえなくなってしまったようだ。
 破綻したリーマンや、バンク・オブ・アメリカ救済合併されるメリルリンチ、それに今回のAIG以外にも、まだまだ破たん処理のためだけでなく、資本増強のためにも公的な資金の投入を願っていることだろう。 おそらく現在は大手金融機関ほどそれを願っていることだろう。

 今度のAIGへの救済で、一番安堵したのは多くのビックといわれる銀行群ではなかったかと思う。 「当局は日本の前例に習って公的資金の活用をためらわない」だろうという感触を持ったからだ。 当然、市場もそれをすでにそのことを織り込んでいることだろうと思う。 そのような道筋がいったん出来てしまうと、アメリカ当局の選択肢は狭められ、言ってみれば公的資金をためらうと市場が大混乱するというシナリオ内でしか動けなくなったと考えるべきだろう。


 「つぶれるべき金融機関が退場して、初めて金融不安が解消する」と豪語していたが、市場による淘汰(とうた)を促す米国の対応をオフは評価するものだが、結局、「問題先送りの末に多額の血税を費した日本」を今回は反面教師にせざるをえなかったようだ。
 ただ、現在はインターネットの普及で、情報の伝わり方が以前の数倍、いや数十倍速い。そんな時代にあっては、対応を一日、いや半日遅れるだけでその結果が全然違うというようなことにもなる。 それだけに当局もその対応を迅速に行わないととんでもない結果に終わるという事になることを今回の事件は見せつけてくれた、と思う。
 
 
 今日のニュースでモルガン・スタンレー・アジア会長のスティーブンS・ローチ元モルガン・スタンレー主席エコノミストは17日、米金融危機の影響で米国およびグローバルの景気循環において一段と下方修正が生じるとの見解を発表した。
 米国景気の調整は従来の住宅を震源したものから、今後は米国消費を震源したものに変わると指摘した。過去数年間続いた米国の浪費により、アジアの新興国に膨大な利益がもたらされたが、今後は貿易・資本フローを通じてグローバル市場に甚大な影響をもたらすとみている。
 このことについてオフは明日までいろいろ考えて、何か書いてみようと思っている。