外泊

 抗がん剤の投与が終わった後はほぼ食事は出来なかったのだが、薬が体外へ出るにつれて少しずつ食べれるようになった。 今は一般の食事メニューを食べている。 だが病院食である、味付けが薄くあまり美味しくない。
 それよりも味覚が少しおかしい。 それが一番分かるのは珈琲を飲んだ時である。 ひとくち口に含むだけで口の中に渋い味が広がって、その後あの珈琲の苦みや酸味などがまつたく感じられない。 つまり本当にこれが珈琲?と言いたくなるような味がするだけである。 あれほど好きだった珈琲だが、今は飲みたいと思わない。 先日どういう訳かふとカステラが食べたいと思い、さっそく嫁さんに買ってきてもらった。 カステラなど最後に食べたのは10年以上前、あるいは20年以上前になるかもしれない。 食べてみて・・・カステラってこんなに甘いものだったんだ・・・とあらためて驚いた。 それと同時に珈琲を入れてもらって飲んだのだが・・・甘いカステラを味がおかしな珈琲で無理無理咽へ流し込んでなんとか食べ終えるということになった。
 病院食がまずく感じるのも、味覚が少しおかしくなっていることのせいがあるかもしれない。 ただここの病院で出される魚類は新鮮でおいしいのが多くそれはたいへんありがたい。 当地が海に近く漁港だったこともあるだろうし・・・おまけに蒲鉾やチクワ類も同じく美味しい。
 それに野菜類もわりと新鮮なものが多く、これもありがたい。 


 病院での生活もすっかり慣れてしまった。 朝食を8時に済ませた後、なかなか抜けない睡眠剤のせいで二時間前後ウトウトとしてしまう。 再び起きてしばらく読書したりPCを見たりしているとお昼になり、昼食べた後頃に娘が来る。 娘に口述筆記してブログを打ってもらって、少し話などをしているともう夕方で、風呂の時間になる。 その風呂の時間の前後に嫁さんが来て入れ替えに娘は帰っていく。 夕食を食べた後嫁さんに少し話しあっていると面会時間終了の告げる放送がなって、嫁さんは帰っていく。 就寝までの時間を再びひとりで読書する。
 次の抗がん剤の投与(24日)までこのような優雅な日が続くことになる。 


 病室は六階にあり窓からは見通しがよくて背の高いマンションも多いが、東側に明石大橋が見える。 明石大橋はじつは明石市に掛っているのではなくて、舞子にあり、舞子は神戸市垂水区である。 まあ、明石海峡をまたいで掛っているので、明石大橋と言われているのだろう。

 また 正面には明石海峡を渡る船と、その向こうには淡路島が見える。

 ♪背伸びして見る海峡に〜 今日も汽笛が遠ざかる〜あなたにあげた夜を返して〜 まさになつかしい港町ブルースの光景が広がっている。


 どうやら今度の連休中に外泊が出来るようである。 本来なら次の抗がん剤治療が明日19日から始まる予定だったが、連休の関係で24日に延期された。 明日、採血、骨髄、心臓等の検査を受けた後、22日の採血検査までの間の期間が空白になり、その間一時帰宅OKという訳である。 せいぜい一泊か二泊のことだが、久しぶりに須磨のマンションに帰って気分転換をしてくるのも良いだろう。