入籍記念日

もう少し過ぎてしまったが、9月にはオフと嫁さんにとって大事な日がある。二人が入籍をして夫婦になった日である。結婚式は挙げていないので、いわばその代わりのような日である。この日を選んだのは、忘れっぽいオフに忘れて欲しくないという意味で、彼女の誕生日に合わせて入籍した。それでも昨年のその日突然
 「今日は何の日?」と言われて思い出せずに彼女を悲しませたことがある。
誕生日や入籍記念日は何日?と聞かれればすぐに答えられるのだが、その日になっていたことを忘れる。つい数日前に、「あぁもうすぐその日だな」と思っていたりしていたのだが、いざその日になったら忘れてしまっていた。その後その事を何度もチクリチクリと指摘されて閉口している。

ちなみに昨年の日記にこのように書いている。

オフは子供の頃からモノ忘れが多かった。

 今回また情けないモノ忘れをしてしまった。

 夜、嫁さんからの電話で、今日は何か言うことないの・・・と言われて、アレレ、なんだろうなぁ・・・と思いながらハッと思い出した。

 嫁さんが忘れないようにとわざわざ自分の誕生日に婚姻届けをしたのだが、その大事なことが重なっている日がその日だという事をコロリと忘れてしまっていたのだ。 嫁さんの誕生日はいつか?訊かれれば、それはもちろん間違いなくちゃんと答えることが出来る。 そんなことはさすがにオフでもちゃんと覚えているが、肝心のその日になっているのをすっかり忘れていた訳である。 その時は、しょうがないわねぇ・・・で済んだのだが・・・

 一昨夜あたりから電話で、これまでの前科を次から次とほじくり出されて、あなたは本当に私のことを思っているの!などとチクリ、チクリと責められている。 そんな話を聞きながら、う〜ん、う〜んと生返事をしているうちにだんだん、だんだん眠たくなってくる。

 そこでまた、ちゃんと訊いているの!大きな声が飛んでくる。 まったくやれやれ、な話であるが・・・来年からカレンダーに特別に大きな丸を付けておこうと思っている。


今年はカレンダーには丸をつけていなかったが、かろうじて思い出して昨年の二の舞は逃れた。でもやはり来年からは丸をつけておこうと思った。
入籍した日よりもむしろ、最初に出会った日や連絡を取り合った日の方が大切な日のような気もするが、その日付も今は忘れている。

医者から多発性骨髄腫という骨髄のガンであると言われ、完全な治療法はなく場合によっては数年、うまくいっても10年程の余命であると聞かされた日の夜に
 「やめときなさいよ。相手も50半ばだし、その内に何かの病気になって世話や介護をさせられるのが落ちよ。それだったら今のままのお一人さまでいた方がよほどマシじゃないの」
こんな言葉が思い出された。

これは嫁さんがオフと付き合い始めていた頃、看護学校時代の古い友人に会って結婚も含めて付き合っている人がいるのだが、という話をした時にその相手が諭すように言ってくれた言葉であった。

 嫁さんがその話を聞かせてくれた時は、オフも大変元気で、「まあそんな事があったとしても十数年先の事だろうな」と笑いとばしていた。

その夜、その言葉を思い出してついついひとり泣いてしまった。



それまでのオフはかなり強引だろうが自分なりの考えを押し通して生きてきたつもりだったので、例え残りの時間が数年しかないといわれても、その数年を自分なりの考えで生きていくことをヨシとすると自分でも思った。だが、そばで悲しんでいる嫁さんの事を思うと、もうこれからは自分のためだけに生きるのではない、自分の考えを曲げてでも この人の意を第一に汲んで生きていくべきだと考えるように変わった。彼女の意というのは、オフに出来るだけ長く生きて欲しい、1日でも長く一緒にいたいという事に尽きるという。
これからは身体にとって良くないといわれることは全部やめ、出来るだけ長生きする事に努めようと考えを切り替えた。